英語にすると、なぜか薄くなる|英語の文章力より先に必要なもの

2026.09.15
Columns

日本語では、言いたいことがある。頭の中に、はっきりした場面もある。

それを英語にしようとすると、こうなります。

Japanese trains are very quiet.

(日本の電車はとても静かです。)

間違ってはいません。文法も合っています。でも、書き終えた瞬間に思う。

「言いたかったのは、こんなことじゃない」

頭の中にあった熱量が、英語に乗っていない。半分どころか、3割も出ていない気がする。

そして、こう結論づけてしまいます。「やっぱり英語力が足りないんだ」

原因は、そこではありません。

単語を増やしても、この症状は消えません

語彙を増やしても、文法を復習しても、この「薄さ」は変わりません。

いちばんはっきり確かめられる方法があります。翻訳ツールに入れてみることです。

「日本の電車はとても静かです」を入れると、出てくるのは Japanese trains are very quiet. です。プロ並みの翻訳精度でも、薄いままです。

理由は単純で、元の日本語が薄いからです。

ここに答えがあります。足りないのは英語の文章力ではなく、その手前にある「掘り下げ」です。

(なぜ日本語の力が英語の質を決めるのかは、英語エッセイの質は、日本語で書く力で決まるで詳しく書いています)

抽象的なまま、英語にしようとしている

英語で書こうとするとき、多くの人がいきなり英語から入ります。

In Japan, we… と打ち始めて、そこで止まる。単語が出てこない、と感じる。

でも、本当に止まっているのはそこではありません。「何を書くか」が、日本語でもまだ決まっていないのです。

「日本の電車って静かだよな」は、感想であって、内容ではありません。この状態で英語にしようとするから、英語も感想止まりになります。

日本語ですら「なんとなく」なのに、慣れない英語で深く書けるはずがありません。順番が逆なのです。

掘り下げの3つの質問

では、どう掘り下げるか。日本語で、3つ自問するだけです。

質問 何が出てくるか
① なぜ、そう思ったのか 感想の理由。具体的な場面が出てきます
② いつ、そう感じたのか 時間・場所・状況。文章に「絵」が入ります
③ 知らない人には、どこが驚きなのか 読者の視点。ここが海外の読者に届く部分です

3つ目がいちばん大事です。ここを飛ばすと、日本人にしか通じない文章になります。

やってみる①:日本語で掘り下げる

① なぜ、そう思ったのか
車内で電話している人がいない。話し声もほとんどしない。誰も注意していないのに、そうなっている。

② いつ、そう感じたのか
帰りの電車で、隣の男性が肩にもたれて眠ってしまったとき。誰も見なかったし、誰も動かさなかった。

③ 知らない人には、どこが驚きなのか
「寝ても、何も盗られない」という前提が、全員に共有されていること。

ここまで日本語で出せると、書くことが決まります。書くのは「静かさ」でも「居眠り」でもなく、「見知らぬ人を信用している社会」の話です。

On the train home, the man next to me fell asleep on my shoulder. Nobody looked. Nobody moved him. In Japan, falling asleep in public is not careless—it means you trust the people around you.

(帰りの電車で、隣の男性が私の肩で眠ってしまった。誰も見なかった。誰も動かさなかった。日本では、公共の場で眠ることは不注意ではない——まわりの人を信用している、という意味だ。)

使っている単語を見てください。train / fall asleep / shoulder / look / move / trust。難しいものは1つもありません。ほぼ中学英語です。

変わったのは英語力ではなく、日本語で掘り下げた深さです。

やってみる②:更に掘り下げる

更に、3つの質問を通します。

なぜ面白いと思ったか——時間が経つほど値段が下がっていく。しかも、貼る時間がだいたい決まっている。
いつ感じたか——夕方6時すぎ、惣菜コーナーの前で人が集まって待っていたとき。
どこが驚きか——「値引きを待つ」という行動が、恥ずかしいことではなく、生活のリズムとして受け入れられていること。

ここまで来ると、書くのは「安売り」ではなく「無駄を出さないことが、日常の習慣になっている社会」の話になります。

Around six in the evening, people gather quietly near the deli counter. They are not in a hurry. They are waiting for the discount stickers. Nobody finds this embarrassing—it is simply how the day ends.

(夕方6時ごろ、惣菜コーナーの近くに人が静かに集まってくる。急いではいない。値引きシールを待っているのだ。誰もそれを恥ずかしいとは思わない——ただ、そうやって一日が終わるだけのことだ。)

最後の1文が、この文章の価値です。そして、それは英語力から出てきたものではありません。3つ目の質問から出てきたものです。

順番を間違えている人が、とても多い

ここは正直に書きます。

「もっと英語らしい表現を知れば、深く書けるようになるはずだ」——そう考えて、フレーズ集を買う人がいます。

効きません。理由は単純で、入れる中身が決まっていないのに、器だけ増やしているからです。

気の利いた言い回しを10個覚えても、書くことが「電車は静かだ」のままなら、出来上がるのは「気の利いた言い回しで書かれた、中身のない一文」です。

正しい順番は、こうです。

やること 効果
1番目 日本語で掘り下げる ここで9割決まります
2番目 中学英語で、そのまま書く 短い文で十分伝わります
3番目 言い回しを整える 最後の仕上げ。ツールも使えます

多くの人が3番目から始めて、止まっています。フレーズ集も翻訳ツールも、3番目では役に立ちます。ただ、1番目の代わりにはなりません。

自分の文章が薄いかどうか、確かめる2つの問い

書いたものを見て、こう自問してみてください。

①「日本に住んだことがない人が読んで、知らなかったことが1つでもあるか?」

「日本の電車は静かです」——ありません。すでに知られています。

「寝ても何も盗られない、という前提が共有されている」——あります。ここが、あなたにしか書けない部分です。

②「これを日本語で誰かに話したとして、相手は面白がるか?」

日本語で話しても面白くないものは、英語にしても面白くなりません。英語が悪いのではなく、中身がまだ足りていないというサインです。

その場合は、英語を直すのではなく、3つの質問に戻ってください。

今日からできること

日本語で、3行のメモを取る

1日1つ、「あれ、これって当たり前じゃないかも」と思ったことを書き留めます。

郵便配達の人が、雨の日でも同じ時間に来る。
なぜ → 決まったルートを毎日回っているから。
驚き → 「時間どおりに来る」ことに、誰も感謝も驚きもしていないこと。

3行で足ります。これが溜まると、書くネタに困らなくなります。

「書くことがない」と感じるのは、ネタがないからではありません。気づいたことを、その場で言葉にしていないからです。3日も経つと、何を面白いと思ったのか忘れています。

英語にするのは、掘り下げてから

メモの段階では、英語にしないでください。掘り下げが終わってから、はじめて英語に移ります。

この順番を守るだけで、出来上がる英語がまったく変わります。

まとめ

  • 英語にすると薄くなるのは、英語力ではなく掘り下げ不足が原因
  • 翻訳ツールに入れても薄いままなのが、その証拠。元の日本語が薄いからです
  • 掘り下げの質問は3つ。なぜそう思ったか/いつ感じたか/知らない人にはどこが驚きか
  • とくに3つ目が大事。ここを飛ばすと、日本人にしか通じない文章になります
  • 掘り下げたあとなら、中学英語でも深い文章が書けます
  • 順番は 日本語で掘る → 中学英語で書く → 言い回しを整える。3番目から始めると止まります

日本語で掘り下げたものが、そのまま英語で届く言葉になります。

この「日本で暮らしている自分の視点を、英語で書いて海外の読者に届ける」書き手のことを、Write Up Lab ではグローバルエッセイストと呼んでいます。必要なのは高い英語力ではなく、自分が見ているものを、日本語で正確に言葉にする力です。

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